墓場への切符―マット・スカダー・シリーズ (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

墓場への切符―マット・スカダー・シリーズ (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)


なんだろう。この作品について語ることが惜しいくらいだ。
話の筋は単純である。
かつて旧知の娼婦、エレインと刑務所に送り込んだモットリーという男が刑務所から出てきてスカダーに復讐を始める。
警察からも協力が得られない今、どうやってモットリーと対峙すればいいのか。
筋は確かに単純だ。だが、そこにあるキラ星のようにこぼれてくる言葉使いには感動の一言である。
スカダーはモットリーを刑務所に送り込んだことについて、「神を演じた」ことへの代償であると考え悩むが、それに対する救い方も秀逸。
感傷的に過ぎると笑いたければ笑えばいい。
だがそこにはまるでかつてスカダーが酒に溺れていたように「現実を、安全に見るためのフィルター」のようなものが確かにある。
それこそがハードボイルド探偵小説のひとつの魅力ではないだろうか。